喫煙室の空

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  下手をすると、この部屋と自分の机の往復しかしない日もある。

  現代では喫煙者の肩身は狭くなる一方で、完全禁煙を強制する会社もある中、喫煙所を設けている会社に勤められるのはまだまだ幸せな方かもしれない。

  でも喫煙者の僕からしてもこの部屋は、臭い。

屁理屈

  テレビなどで良く、「良い子はマネしないでね」などというテロップが出る事がある。芸人さんなどが、オイルを口に含んでライターを口のそばで点けて火を噴く芸など(例えが古いな)、まあ、PTAなどが目くじら立てそうな映像に付いてくるあのお馴染みのテロップだ。最近は親の過保護化が進んでいる(耳が痛いなぁ)ので、たいした事じゃなくても「良い子はマネしないでね」と出てくるから、皆さんも目にする機会が多いと思う。

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  コーラを飲みながらテレビを観ていた息子がその「良い子はマネしないでね」というテロップを発見して、ガフウと一息ゲップをしてから、「あのさぁ」と僕の方に向き、言った。
「良い子はマネしないでね、とか言って、そもそも良い子はこんな事しないんだかさぁ」
  そう言うと、息子はちゃぶ台の上に空になったコップを置き、ペットボトルからコーラを注ぎ足してから続けた。
「『悪い子はマネしないでね』の方が良くね?」
  鼻の穴を膨らませて興奮気味に言うと、再びテレビに向き直り、息子はガブガブとコーラを飲み始めた。僕は少し考えて言った。
「あのさぁ 、その考え方で行くと、『悪い子』は注意されても悪戯する訳だから、逆にそのテロップは無駄じゃねぇか?」
  コーラを一気に飲み干すと、息子は暫く「うーん」と考え、空になったコップをちゃぶ台に置いた。再びコーラのペットボトルに手を伸ばしたので、反射的に僕は「もうやめろ」と言うと、「ちぇっ」と息子は小さく舌打ちした。
「じゃあさぁ、『良い子』も『悪い子』もナシにして、ただ『マネしないで下さい』で良くね」
  息子は再び鼻の穴を膨らまして言った。
  「まぁ……、たしかにそうかもね」
  僕が言うと、息子はもの凄い満面の笑み(ドヤ顔とも言う)で、「でしょ? でしょ?」と言って、普通にペットボトルに手を伸ばし、コーラをコップに注いだ。そんな息子はあと少しで6年生。

  こら。
  屁理屈ばっかコネてないで勉強しろ。
  しれっとコーラばっか飲んでないで。 

本音

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  この際だから正直に言っておこう。

  パパ、仕事なんて大っ嫌いなんだ。

  こんな誰もいない休日の事務所で一人図面を書いてるなんて正気の沙汰じゃないと思ってる。

  君たちがやってる居残り勉強みたいなモノさ。自主的な休日出勤なんて能力の無いのを如実に表しているだけだからね。

  君たちには信じられないかも知れないけれども、実は、パパにも君たちのような子供の時代があったんだ。生まれながらのオッサンではないんだよ。やりたい事は一杯あったし、なりたい将来像ってのも子供ながらに漠然とだけれどもあった。なんでも実現可能だと思っていたし、自分はちょっと他人とは違うな、なんて偉そうに考えていたんだ。サラリーマンになるなんて思ってもいなかったよ。

  でも、今はサラリーマンだ。

  パパが子供の頃一番なりたくなかった存在に、今、なってる。

  そして、なりたくなかった小言をいうオヤジになってる。

  酒を呑んで管を巻き、理屈をコネてはあれこれ指図して、ちょっとした事で叱る。パパ自身が嫌だった親になっているのは認めるよ。

  でも、コレだけは言っておこう。

  グズグズ言うのはパパがまだあの頃の夢や理想を持っているからだ。失っていればそんな事は言わない。パパにだって未だに夢はあるし、希望もある。なりたいものだってあるし、その為に少しだけど努力もしてる。夢を見るのは君たち子供だけの特権じゃないって事だ。

  パパの数少ない経験から言わせてもらおう。

  今は多分、嫌な事ばかりだし、不安だし、なんだか世の中不公平だと思うだろう。努力しても実らない事もあるし、大人の言ってる事は矛盾だらけだし、なんだか歳を取るごとにムカつく事が増えているように感じている事だろう。

  でも、大人もそうなんだ。

  大人の世界も嫌な事ばかりだし、不安だし、なんだか世の中不公平だし、努力したって実らない事が多いし、社会生活は矛盾だらけだし、ムカつく事は年々増えていくんだ。

  けど、みんな一所懸命生きていく。

  なぜなら、心の中は大人も君たちと変わらないから。夢や理想を持っているんだ。夢や希望を持っているからこそ、絶望感や挫折感を味わうんだよ。そもそも夢や希望が無ければ、絶望や挫折もないじゃない? 多少のベクトルの方向性は違えど、君たちと同じように大人達も、楽しい事や面白い事、ちょっとした幸せを感じようと生きているんだよ。

  だから正直に言うと、パパは仕事なんて大っ嫌いなんだ。今すぐ投げ出してもいいくらいに。

  君たちが勉強を面倒くさいと思う以上に、仕事なんて面倒くさいんだ。今すぐ袋詰めして木曜日の燃えないゴミの日に出したっていいくらいだ。

  それでもパパは投げ出さない。投げ出しそうで、投げ出さない。実はもの凄く危ういんだけど。

  それは申し訳無いけど、「君たちを立派に育てなきゃ」とかいう使命感でも責任感でもないんだ。それは……。

  それは、君たちが大人になって、酒を酌み交わせるようになったら話そう。

  今、言える確かな事。それは……。

 

  やっぱり、パパは仕事なんて大っ嫌いって事。

  実は今すぐ投げ出してもいいくらいだ。

春望

  杜甫の詩の事ではない。本当に春を心待ちにしている。立春も過ぎたしね。

  暖かくなったら、若き日を忍んで髪型をツーブロックにしようかと思っている。

  ツーブロックと言えば高校生の頃、行き過ぎたツーブロックでモヒカンになってた人を僕は知っている。いや、正確に言えば彼の学校が厳しかったので、モヒカンを真ん中分けにしてツーブロックにしていた訳なのだけれども、まあ、そんな事は鶏が先か卵が先かみたいな物で些事である(え? 些事なの?)。

  ……どーでもいい情報でしたね。

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  とにかく、僕は春を待ち望んでいる。

  この犬の人形のように。

  犬なのに人形とはこれいかに。

  それよりこの犬は別に春を待っている訳ではない。と思う。

  これまった失礼いたしました。

 

  ……春を待ち望んでいるんだってばさ。

  だって腰に優しそうじゃん。春って。

Today's Sky (Dec. 25)

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  気持ちの上ではつい先週くらいに初詣をしたと思っていたのに、もうクリスマスでもうすぐお正月である。

  今年は各地で「クリスマス寒波」なる物が豪雪を降らせ、雪に見舞われた地域の人たちにおいては大変なクリスマスになったのではないかと思う。クリスマスに雪が降って喜ぶのは子供達と、特に何にも責任を負う事のない若いカップルくらいだろう(語弊があったらごめんなさい)。ねぇねぇ、天国のビング・クロスビー、ねえ、聞いてるぅ!?

  今年、我が家はプラスチック製のクリスマス・ツリーを飾る事はしなかった。というか、あまりの時の経ちかたの速さに「出すのを忘れていた」と言うのが本音だ。

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  ツリーと言えば、よく「我が家では毎年、本物のもみの木を買って来てツリーを作るんだ」的な話を聞く(今年も聞いた)が、庭に植えてあるもみの木を使ってツリーを作るのならまだしも、毎年もみの木の鉢植えを買って来てツリーを作るというのは一体どういう事なのだろう? クリスマス終わったらその鉢植えはどうするのだろうか? 捨てるの? 燃やすの? それともヤフオクかなんかで売るの? どちらにしろ地球砂漠化計画に大貢献である事は間違いがない(いや、それ用に栽培されてるんだろうけどさ)。「ちきゅうにきびしい」と、地球を二本の手が殴ってる絵のステッカーを貼りたくなるくらいだ。プラスチック製のツリーを毎年使い回す方がどれだけ地球にやさしい事やら。と、いいつつ飾らなかったんだけれどもね、今年は。だって仕舞うの面倒くさいんだもの。

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  今年も東京はクリスマスに雪は降らなかった。

  いや、実は本当は先にも書いたように、大人たちにはその方が良いのだけれども。でも、子供達は夢見ている。いつか真っ白な雪景色のなかにツリーを飾る事を。プラスチック製のね。