この際だから正直に言っておこう。
パパ、仕事なんて大っ嫌いなんだ。
こんな誰もいない休日の事務所で一人図面を書いてるなんて正気の沙汰じゃないと思ってる。
君たちがやってる居残り勉強みたいなモノさ。自主的な休日出勤なんて能力の無いのを如実に表しているだけだからね。
君たちには信じられないかも知れないけれども、実は、パパにも君たちのような子供の時代があったんだ。生まれながらのオッサンではないんだよ。やりたい事は一杯あったし、なりたい将来像ってのも子供ながらに漠然とだけれどもあった。なんでも実現可能だと思っていたし、自分はちょっと他人とは違うな、なんて偉そうに考えていたんだ。サラリーマンになるなんて思ってもいなかったよ。
でも、今はサラリーマンだ。
パパが子供の頃一番なりたくなかった存在に、今、なってる。
そして、なりたくなかった小言をいうオヤジになってる。
酒を呑んで管を巻き、理屈をコネてはあれこれ指図して、ちょっとした事で叱る。パパ自身が嫌だった親になっているのは認めるよ。
でも、コレだけは言っておこう。
グズグズ言うのはパパがまだあの頃の夢や理想を持っているからだ。失っていればそんな事は言わない。パパにだって未だに夢はあるし、希望もある。なりたいものだってあるし、その為に少しだけど努力もしてる。夢を見るのは君たち子供だけの特権じゃないって事だ。
パパの数少ない経験から言わせてもらおう。
今は多分、嫌な事ばかりだし、不安だし、なんだか世の中不公平だと思うだろう。努力しても実らない事もあるし、大人の言ってる事は矛盾だらけだし、なんだか歳を取るごとにムカつく事が増えているように感じている事だろう。
でも、大人もそうなんだ。
大人の世界も嫌な事ばかりだし、不安だし、なんだか世の中不公平だし、努力したって実らない事が多いし、社会生活は矛盾だらけだし、ムカつく事は年々増えていくんだ。
けど、みんな一所懸命生きていく。
なぜなら、心の中は大人も君たちと変わらないから。夢や理想を持っているんだ。夢や希望を持っているからこそ、絶望感や挫折感を味わうんだよ。そもそも夢や希望が無ければ、絶望や挫折もないじゃない? 多少のベクトルの方向性は違えど、君たちと同じように大人達も、楽しい事や面白い事、ちょっとした幸せを感じようと生きているんだよ。
だから正直に言うと、パパは仕事なんて大っ嫌いなんだ。今すぐ投げ出してもいいくらいに。
君たちが勉強を面倒くさいと思う以上に、仕事なんて面倒くさいんだ。今すぐ袋詰めして木曜日の燃えないゴミの日に出したっていいくらいだ。
それでもパパは投げ出さない。投げ出しそうで、投げ出さない。実はもの凄く危ういんだけど。
それは申し訳無いけど、「君たちを立派に育てなきゃ」とかいう使命感でも責任感でもないんだ。それは……。
それは、君たちが大人になって、酒を酌み交わせるようになったら話そう。
今、言える確かな事。それは……。
やっぱり、パパは仕事なんて大っ嫌いって事。
実は今すぐ投げ出してもいいくらいだ。